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こんにちは。
実家ホテルの倒産を経験した 後継社長専門コンサルタントの大島康義です。
もし今、
・社内を見渡しても、右腕になりそうな人が見当たらない
・任せてはみたが、結局自分がやり直している
・気づくと、判断のほとんどが自分のところで止まっている
そんな状態なら、今日の記事はきっと参考になると思います。
先に、身も蓋もないことを申し上げます。
右腕は、作れません。
私が現場で見てきた限り、右腕は育成の成果として生まれるというより、 社長が席を空けたときに、そこへ出てくるものでした。
経営者が「右腕が欲しい」と感じるのはなぜか

社長がすべての判断を抱える経営の限界
「右腕が欲しい」
そうおっしゃる社長に、私はよく聞き返します。
何を手伝ってほしいのですか、と。
すると、たいていは実務の話が出てきます。
現場を見てほしい。 数字をまとめてほしい。 社員をまとめてほしい。
ただ、話を進めていくと、途中で言葉が変わってくることがあります。
「決めたあとに、一人になるのがきついんです」
これが本音であることが、少なくありません。
社長が抱えているのは、仕事の量ではなく、判断の重さです。
やることが多いだけなら、人を増やせば片づきます。
でも、決めた責任は分けられない。
だから、量を減らしても軽くならない。
社長がすべてを決めている会社は、外から見れば統率が取れています。
社長の処理速度が、そのまま会社の速度になっている。
そして社長が迷った日は、会社全体が待っている。
会社の限界が、社長ひとりの限界と重なってしまうのです。
優秀な社員がいても右腕にならない理由
ここで不思議に思われることがあります。
社内に、優秀な社員はいる。
数字も出している。 現場も回している。 人望もある。
それなのに、その人が右腕にならない。
なぜでしょうか。
私が見てきた範囲では、優秀な社員ほど、社長の領域に手を出しません。
出さないことが、優秀さの証明になっているからです。
決められた範囲を、正確に、期限内に。
越えない。はみ出さない。勝手にやらない。
その積み重ねで評価されてきた人に、 ある日突然「もっと踏み込んでほしい」と言っても、動けるはずがありません。
本人の中では、踏み込まないことが、これまでずっと正解だったのです。
右腕になる人は、少し違う動き方をします。
頼まれていないのに、社長の仕事を先に触ってくる。
「来期の方針、たたき台を作ってみたんですが、見てもらえますか」
本来なら社長の仕事です。
誰にも頼まれていません。
その一歩を出せるかどうかが、優秀な社員と右腕を分けています。
そして、その一歩が出るかどうかは、実は本人の性格の問題ではありません。
出したときに、社長がどんな顔をするか。
それを、社員はよく見ています。
事業承継後に右腕の存在が重要になる背景
後継社長の場合、ここにもう一段の構造が乗ります。
会社には、たいてい先代の右腕がいます。
長年、先代を支えてきた方です。
ここで見落とされがちなのは、その方も最初から右腕だったわけではない、ということです。
先代が、どこかの時点で席を空けた。
そこに、その方が入った。
だから今の形になっている。
つまり、その席は先代が空けた席なのです。
後継社長の席は、まだどこにも空いていません。
社長の椅子は移りました。
けれど、社長の隣は、まだ誰の席にもなっていない。
そのことに気づかないまま、 「なぜ誰も自分を支えてくれないのか」と感じてしまう。
後継社長の孤立は、たいていここから始まります。
経営における右腕の役割とは何か

社長の代わりではなく、社長の意思を実現する存在
右腕を探すとき、多くの社長が無意識に描いている像があります。
自分の代わりに、自分と同じ判断をしてくれる人。
これが、右腕づくりを止めている一番大きな思い込みです。
後継社長学では、こうした思い込みをコードと呼び、 それを置き換えることをリ・コードと呼んでいます。
ここでのリ・コードは、こうなります。
コード:右腕=社長の代わりに、社長と同じ判断をする人
リ・コード:右腕=社長がまだ言葉にできていないことを、先に形にする人
代わりを探している限り、社長は永遠に満足できません。
社長と同じ判断ができる人がいたら、その人はもう社長です。
右腕が果たしているのは、複製ではなく、先回りです。
社長が「なんとなくこうしたい」と思っている段階で、 それを紙にして持ってくる。
違っていれば、直せばいい。
大事なのは、社長の頭の中にしかなかったものが、 一度、会社の外に出てくることです。
そこから会社は動き始めます。
幹部や社員との信頼関係をつくる右腕の役割
右腕がいる会社と、いない会社。
一番はっきり差が出るのは、悪い話の伝わり方です。
社長には、いい話しか届かなくなる時期があります。
誰も嘘はついていません。
ただ、言いにくいことは、少しずつ後回しになる。
そして、手遅れになってから机の上に載る。
右腕が機能している会社では、これが起きにくくなります。
社員が社長に直接言えないことを、右腕には言えるからです。
「社長のあの言い方だと、現場は納得しないと思います」
これを社長に伝えられる人がいるかどうか。
右腕とは、社長の指示を下ろす人ではありません。
反対意見が通る道を、社内に一本つくっている人です。
その道がない会社は、静かに情報が痩せていきます。
社長と右腕が同じ方向を向くために必要なこと
方向を合わせようとして、多くの会社が方針書を配ります。
それも必要です。
ただ、それだけでは足りません。
方針書に書かれるのは、結論だけだからです。
右腕になる人が本当に知りたいのは、結論ではありません。
なぜ社長がその結論を選んだのか。
何と何を天秤にかけて、何を捨てたのか。
そこが見えないと、応用が利かないのです。
判断の理由を言葉にしていない社長のもとでは、右腕は育ちません。
言われた通りにしか動けないからです。
逆に、迷った過程まで見せている社長のもとでは、 そばにいる人が、少しずつ社長の判断の癖を覚えていきます。
方向が揃うというのは、意見が一致することではありません。
同じ材料を見て、同じ順番で考えられるようになることです。
右腕の作り方で大切なのは「任せる」だけではない

右腕候補と経営者の価値観をすり合わせる
右腕候補と、一対一で座る時間を取ってください。
このときに何を話すかで、その後がかなり変わります。
多くの社長は、期待を伝えようとします。
これからは君に任せたい。 もっと経営に近いところで動いてほしい。
気持ちはわかります。
ただ、この順番だと、相手は受け取るだけになります。
私がお勧めしているのは、先に聞くことです。
あなたは、この会社をどうしたいと思っていますか。
この質問を、初めて社員にした社長が、あとでこうおっしゃいました。
「十五年一緒に働いてきて、初めて聞きました」
その社員の方は、しばらく黙ったあと、ぽつぽつと話し始めたそうです。
こうしたら良くなると思っていること。
ずっと気になっていたこと。
言っても仕方ないと思って飲み込んできたこと。
意見がなかったのではありません。
出す場所がなかっただけでした。
期待を伝えるより先に、相手の中にあるものを外に出す。
そこから始めた関係は、あとから崩れにくくなります。
小さな仕事から任せて信頼関係を積み上げる
任せ方については、ひとつだけ申し上げたいことがあります。
渡したあと、社長が先に結論を言わないことです。
小さな案件を任せる。
相手が考えて、持ってくる。
そのとき社長には、だいたい答えが見えています。
なにしろ経験が違います。
だから、つい言ってしまう。
「それより、こうしたほうが早いよ」
一度言えば、相手は納得します。
三度言えば、相手は考えるのをやめます。
五度言えば、相手は答えを聞きに来るだけの人になります。
これは能力の話ではなく、学習の話です。
自分で考えても、どうせ社長の答えに上書きされる。
そう学んでしまえば、誰でもそうなります。
だから、任せたあとの数十秒の沈黙に耐えられるかどうかが、分かれ目になります。
正解を渡すより、考える場を残す。
右腕は、こちらが正解を我慢した回数の分だけ育っていきます。
権限と責任をセットで渡して経営感覚を育てる
そして、最も大きな分岐点がここです。
自分と違う判断を、一度そのまま通せるかどうか。
「この範囲は任せた」
そう言いながら、いざ違う判断が上がってくると、覆してしまう。
覆すこと自体が悪いのではありません。
問題は、覆した瞬間に、その人が二度と決めなくなることです。
任されたと思ったのに、決めたら戻された。
一度この経験をすると、人は必ず先に確認を取りに来るようになります。
そして社長は、また全部を決める場所に戻ります。
決裁の上限を決めるのは、そのためです。
その金額の中では、社長が違うと思っても通す。
結果が思わしくなければ、そのときに一緒に振り返る。
責任だけを渡すのは、人を潰します。
権限だけを渡すのも、会社を危うくします。
両方を、範囲を区切って、同時に渡す。
その線が引かれた瞬間から、人は経営者の目でものを見始めます。
右腕が育つと、社長の経営はどう変わるのか

社長が本当にやるべき仕事に集中できるようになる
右腕が育った会社を訪ねると、社長の様子が先に変わっています。
会議で、最後まで黙っていられるようになっている。
報告の途中で、先回りして口を挟まなくなっている。
本人は、たいてい自覚していません。
「最近、少し楽になりました」
そう言うだけです。
判断待ちの列が短くなり、決めたことが翌週には動いている。
そうなると、時間より先に、頭の中に余白ができます。
そして多くの後継社長が、その余白のなかで、同じ問いに戻ってきます。
自分はこの会社で、どんな景色を見たいのか。
右腕づくりは、組織と実権をどう握るかという経営軸の話です。
ただ、そこが整った先には、必ず事業軸の問いが待っています。
継ぐ人としてではなく、事業家として何をやりたいのか。
憧れに向かう事業は、余白のないところには浮かんできません。
幹部や社員が自ら動く組織へ変わっていく
右腕が動き始めると、その下も変わります。
・悪い報告が、早く上がってくる ・決めたことが、途中で止まらなくなる ・小さな提案が、勝手に出てくる
派手な変化ではありません。
でも、社内にいれば、はっきりわかる変化です。
社員が見ているのは、社長の言葉ではなく、社長の反応です。
先回りした人が評価されている。
違う意見を言った人が、潰されていない。
それを目にした瞬間から、人は動き方を変えます。
組織の空気は、制度ではなく、前例で変わっていきます。
「自分一人で頑張る会社」から「仲間と未来をつくる会社」へ
最後に変わるのは、社長自身の孤独の質です。
後継社長の孤独は、相談相手がいないことから生まれるだけではありません。
この会社を背負っているのは自分だけだ。
その感覚から生まれます。
右腕が育つと、背負うものが減るわけではありません。
背負っている人が、自分だけではなくなる。
会議で、自分以外の人が会社全体の話をしている。
その光景を初めて見たときのことを、 「拍子抜けするくらい、ほっとしました」と話してくださった社長がいました。
一人で頑張る会社から、仲間と未来をつくる会社へ。
その転換は、たいてい、こういう地味な場面から始まります。
私は後継者だった頃、父の右腕にはなれませんでした。
父の仕事に手を出すことは、当時の私には越権に思えたのです。
方針も、資金繰りも、対外的な話も、父の領分でした。
誰かに止められたわけではありません。
自分で、そこに線を引いていました。
その線を越えていれば、何かが変わっていたかもしれない。
そう思うことが、今でもあります。
だから、右腕がいないと感じている社長には、 人材ではなく、線のほうを見ていただきたいのです。
社長の隣に、席は空いているか。
空いていることが、社内に伝わっているか。
そこへ一歩踏み出した人を、これまでどう扱ってきたか。
右腕を作る方法があるとすれば、それは教育ではなく、 社長が自分の領分を少しだけ手放すことなのだと思います。
そして、そこに誰かが座るまで、待つことです。
案外、その席をずっと見ていた人が、社内にいるかもしれません。



