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こんにちは。
後継社長学提唱者の大島康義です。
私はかつて実家ホテルの倒産を経験し、その時の学びと経験を後継社長専門コンサルタントとしてお伝えさせていただいております。
今日は、「中小企業に労働組合ができたら」についてお話ししたいと思います。
後継社長の方とお話ししていると、このテーマは、誰にも相談できずに抱え込まれていることが多いと感じます。
ある日、会社に一通の書面が届く。
「労働組合結成通知書」
「団体交渉申入書」
差出人の欄には、よく知っている社員の名前。
あるいは、聞いたことのない社外のユニオンの名前。
頭が真っ白になる。
「なぜ、直接言ってくれなかったんだ」
裏切られた。
そう感じる方もいると思います。
先代の時代には、こんなことはなかった。
自分の代で、会社をこうしてしまった。
そんな思いが、胸の奥で重なっていく。
その感覚は、自然なものです。
ただ、この書面が届いた日は、会社の分かれ道でもあります。
対応を誤れば、法律上の問題になる。
感情で動けば、対立は長引く。
けれど、向き合い方しだいで、組織が生まれ変わるきっかけにもなります。
労働組合の結成を知ったとき、経営者がまず確認すべきこと

団体交渉を申し入れられたら、最初に何をすればよいのか
書面が届くと、急いで動きたくなります。
すぐに突っぱねたくなる人もいる。
その場でなんとか収めたくなる人もいる。
どちらも、少し待ってください。
申入書には、たいてい要求の内容、交渉日時の希望、回答の期限が書かれています。
組合員は社内の社員だけなのか。
社外のユニオンに加入した人がいるのか。
何を、いつまでに求めているのか。
一度、深呼吸をして、そこを確かめる。
そして、労働問題に詳しい社会保険労務士や弁護士に、早めに声をかける。
私は以前から、後継社長には「本音で相談できる専門家を持ってほしい」とお伝えしてきました。
こういう日のためです。
団体交渉そのものは、断ることができません。
ただ、日時や場所、出席者は、組合と話し合って決めていくことができます。
慌てて、相手の言う日程に飛び込む必要はないのです。
会社側が避けるべき対応と、押さえておきたい法律上のルール
組合ができたと知った直後、社内では、こんな言葉が出やすくなります。
「誰が言い出したんだ」
古参の幹部が、組合員を個別に呼び出して、「先代に恩があるだろう。考え直せ」と諭す。
組合に入った社員だけ、急に配置が変わる。
どれも、会社を思っての行動かもしれません。
けれど、労働組合法はこれらを「不当労働行為」として禁じています。
組合活動を理由にした不利益な扱い。
正当な理由のない団体交渉の拒否。
組合の運営への介入や、切り崩し。
善意でやったかどうかは、関係がないのです。
この事実だけは、頭に置いておいてください。
一方で、誤解されやすいこともあります。
会社には、要求をすべて呑む義務はありません。
求められているのは、誠実に交渉することです。
会社の考えを、根拠とともに説明する。
必要に応じて、資料も示す。
初回の交渉で、その場で書面にサインする必要もありません。
持ち帰って考えていいのです。
要求の内容だけでなく、結成に至った経緯にも目を向ける
要求書に並ぶのは、賃金、残業代、休日といった条件です。
けれど、文面だけを読んでいると、見落とすものがあります。
なぜ、この形を選んだのか。
組合をつくるのは、社員にとっても簡単なことではありません。
毎日顔を合わせる職場で、社長と向き合う側に立つ。
家族に心配されたかもしれない。
同僚に迷ったと打ち明けたかもしれない。
相当の覚悟がいります。
その覚悟をさせたものは、何だったのか。
会社の本当の課題は、たいてい、要求書の行間にあります。
なぜ社員は会社に直接訴えず、労働組合をつくるのか

待遇への不満だけではない、職場に積み重なる不信感
社員と会社のあいだには、雇用契約があります。
けれど、社長とのあいだに「心の契約」が結ばれているとは限りません。
心の契約がないとき、抵抗は、ふつう静かに起きます。
返事はする。でも動きが鈍い。
やる。でも腹が落ちていない。
労働組合は、その静かな抵抗が、はじめて声になったものとも言えます。
経済学者のアルバート・ハーシュマンは、組織に不満を持った人がとる行動を「離脱」と「発言」に分けて考えました。
黙って去るか。
とどまって声を上げるか。
辞めていく社員は、何も言わずにいなくなります。
声を上げた社員は、去らなかった。
この会社に、まだ何かを期待している。
そう見ると、あの書面の意味が、少し違って見えてきませんか。
社長には届かない現場の声と、管理職との認識のズレ
以前、1通のメールを受け取りました。
22年も前、私がホテルの後継者だった頃に、社員として働いていた方からでした。
懐かしかった。
同時に、未熟だった自分を思い出して、少し苦い気持ちにもなりました。
あの頃の私は、社員の本音をどこまで聴けていたのだろうか。
振り返ると、心もとないのです。
社長のもとに届く情報は、たいてい途中で整えられています。
管理職は、問題が大きくなる前に自分で収めようとする。
悪い報告ほど、上がってこない。
社長は「うちは大丈夫」と思っている。
現場は「何度言っても届かない」と思っている。
同じ会社にいながら、見ている景色がまるで違う。
これは、誰かが悪いという話ではありません。
情報の流れ方という、構造の話です。
家業ならではの慣習や、古参社員との関係が生む難しさ
家業には、明文化されていない約束事がたくさんあります。
先代の頃は、それで回っていました。
社長が一人ひとりの顔と家族を知り、困ったときには直接声をかけていた。
規程に書かれていなくても、「社長がなんとかしてくれる」という信頼が、仕組みの代わりをしていたのです。
社長が代わると、その信頼は自動では引き継がれません。
古参社員から見れば、後継社長は「途中から来た人」に見えやすい。
先代には恩がある。
けれど、新しい社長にはまだ預けきれない。
仕組みはない。
信頼も、いったん途切れた。
その空白に、組合が生まれることがあります。
後継社長に起きやすい出来事の多くは、本人の力量より、この構造から生まれています。
労働組合との対立を深めないために、社長が変えたい考え方

要求を受け入れるか拒むかだけで、問題を捉えない
要求書を前にすると、思考は二択になりがちです。
呑むか、突っぱねるか。
呑めば、会社がもたないかもしれない。
突っぱねれば、対立が深まる。
どちらを選んでも苦しい。
なぜでしょうか。
二択で考えているかぎり、交渉の場が、勝ち負けを決める場になってしまうからです。
勝っても、負けても、翌日から同じ職場で働く関係は傷みます。
リ・コードの例で示すと、こうなります。
コード:労働組合は、会社の敵である。
リ・コード:労働組合は、届いていなかった声の代弁者である。
敵だと思えば、守りに入る。
代弁者だと思えば、聴きにいける。
同じ書面でも、見るコードが変わると、打つ手が変わります。
会社の事情と社員の主張を整理し、譲れる点と譲れない点を明確にする
感情を、いったん脇に置く。
要求の一つひとつを、紙に書き出してみる。
すぐに応えられること。
時間をかければ応えられること。
どうしても応えられないこと。
三つに分けるだけで、「全部か、ゼロか」の思考がほどけていきます。
応えられないことは、理由とともに伝える。
決算書の数字を見せるのは、勇気がいるかもしれません。
けれど、数字を隠すほど、不信は深まります。
開示すると、話し合う土俵が揃います。
同じ数字を見て、同じ現実を共有する。
そこから先の話は、ずいぶん変わってきます。
事業を守る責任と、働く人を大切にする姿勢を両立させる
社長には、会社を存続させる責任があります。
社員の生活も、その上に成り立っています。
だから、すべての要求に応えられないことはある。
ただ、ひとつだけ自分に問うてみてほしいのです。
「会社を守るため」という言葉が、社員の声を退ける言い訳になっていないか。
両立とは、条件をちょうど真ん中で折り合わせることではありません。
会社の事情を正直に話すこと。
社員の声を本気で聴くこと。
その両方を、途中でやめない姿勢のことです。
労働組合への対応を、強い会社へ変わるきっかけにする

問題が起きてから動く経営から、兆しをつかむ経営へ
組合ができる前に、兆しはたいていあります。
退職が続く。
会議で発言が減る。
残業が、特定の人に偏っている。
有給を取りにくい空気がある。
兆しは、数字と空気の両方に出ます。
後継社長学では、社員一人ひとりと個別に向き合い、感謝を伝え、悩みを聴き、「力を貸してもらえますか」と問いかける「契り結び」を大切にしています。
ここで一つ、気をつけたいことがあります。
交渉が続いている最中に、組合員を個別に呼んで組合のことを持ち出せば、介入と受け取られるおそれがあります。
交渉の話は、交渉の場で。
契り結びは、組合を切り崩す道具ではありません。
平時から、全員と、静かに続けていくものです。
その積み重ねがある会社では、声が書面になる前に、社長に届くようになります。
社長の思いを伝わる言葉にし、会社の進む方向を共有する
交渉の席で、社長が懸命に説明する。
業績が厳しいこと。
将来のために投資が必要なこと。
内容は正しい。
けれど、相手の表情は変わらない。
こうした場面で起きているのは、言葉の正しさの問題ではありません。
後継社長の言葉が、「何をするか」にはなっていても、「何者として立つのか」にはなっていないのです。
指示は届いても、信は届いていない。
この会社を、どういう思いで引き受けたのか。
何を守り、何を変えたいのか。
社員と、どこへ向かいたいのか。
その核を自分の言葉にしたものを、私は「後継事業家ステートメント」と呼んでいます。
核がある社長の「応えられない」は、拒絶ではなく、方針として届きます。
後継社長が組織の現実と向き合い、自分らしい経営を築く
組合ができたという事実は、重い。
ただそれは、先代の時代から積み重なってきた構造が、ようやく表に出てきたということでもあります。
あなた一人がつくった問題ではありません。
そして、その構造に向き合えるのは、いま社長の席にいる、あなただけです。
経営軸だけで対応すると、法律と数字の話で終わってしまいます。
誰に、どんな価値を届ける会社にするのか。
そのなかで、自分はどんな社長でありたいのか。
事業軸と人生軸が重なったとき、組合との関係は、対立から協議へと変わっていきます。
そのとき後継社長は、先代の会社を「継ぐ人」から、自分の会社を「つくる人」へと、一歩進んでいるはずです。
今日お話ししてきたことを、整理しておきます。
・結成通知が届いたら、感情で動かず、専門家とともに誠実に交渉する
・要求の行間にある「結成に至った経緯」に目を向ける
・労働組合は、届いていなかった声が、ようやく形になったもの
去っていく社員は、何も言いません。
声を上げた社員は、まだこの会社に期待しています。
その期待に、どんな会社で応えていくのか。
組合の書面は、その問いを、後継社長であるあなたに手渡しているのだと、私は思っています。



